EXPERIMENT 03 / FROM STL TO ZIRCONIA

AIが設計したクラウンは本当に模型へ入るのか?

Astra Pro / Claude Opus 5.5
ミリング・シンタリング後の実物検証

模型上での観察記録

これまでDentory実験室では、汎用AIのAstra ProとClaude Opus 5.5に歯科模型STLを解析させ、クラウンの3Dデータを生成させました。今回は、そのデータを実際にジルコニアで製作してみました。

閉じたSTLとして形ができることと、加工したものが歯科技工物として成立することは別です。AIの画面上の自己評価から一歩進めて、ミリング・シンタリング後に模型へ装着すると何が起きるのかを、歯科技工士の目で確認しました。

01 — 条件を揃えた部分と、揃っていない部分

今回、Astra ProとClaude Opus 5.5の両クラウンには、同じIPS e.max ZirCAD Prime Estheticを使用しました。材料差によって結果が変わらないように、同一材料で製作しています。

一方、形態を生成するときの条件には違いがあります。Claudeには最終プロンプトで「可能であれば反対側46の形態を参考にしてください」と伝えています。Claudeは実際に対側46を左右反転した形態を出発点とし、36の支台歯、35・37、対合26に合わせて調整しました。

Astra Proの初回実験では、対側46を参考にするようにも、参考にしないようにも指定していませんでした。ミラー参照を禁止したわけではありません。この条件差があるため、今回の着座の違いをそのままAIモデルの能力差とは扱いません。

設計時の指示と経過は、GPT / Astra Proの初回設計記事とClaude Opus 5.5の設計記事に残しています。

02 — 生成したSTLを、実際に加工する

両AIが生成したSTLを通常のクラウンデータとしてミリングし、シンタリングしました。今回は加工機や焼成条件の比較ではなく、AIの設計形態を実物にしたときの確認が目的です。両方とも、ジルコニアとして加工するところまでは到達しました。

ジルコニアディスク内に残るAI設計クラウンのミリング後の状態
AIが生成したSTLを実際に加工。写真はミリング後、ディスク内に残るクラウンです。

03 — 模型へ装着してみると

Astra Pro:コンタクトより下で、挿入を妨げる干渉

Astra Proのクラウンは、シンタリング後に模型へ装着しようとしましたが、完全着座できませんでした。主に気になったのは隣接面です。

単にコンタクトが強いだけではありません。コンタクトより歯頸側の形態に強いアンダーカットがあり、挿入途中で隣在歯に干渉しました。最終位置でコンタクトが成立する形でも、その位置へ到達するまでの経路が十分に考慮されていなかった可能性があります。これは今回、実物にして初めて明確になった問題でした。

Claude Opus 5.5:大きな調整を行わず完全着座

Claudeのクラウンは、ほぼ抵抗なくスムーズに模型へ完全着座しました。手元で確認した感覚としては「スコンと入った」という印象です。ただ、入ったことだけで完成度の高いクラウンと評価したわけではありません。辺縁と外形には別の課題が残りました。

Astra Pro設計クラウンを模型に装着しようとした状態の頬側観
Astra Pro/模型・頬側。挿入途中で隣在歯に干渉し、完全着座できなかった状態です。
Claude Opus 5.5設計クラウンが模型へ着座した状態の頬側観
Claude Opus 5.5/模型・頬側。大きな調整を行わず、模型へ完全着座しました。
Astra Pro設計クラウンの模型装着状態を舌側から確認した写真
Astra Pro/模型・舌側。同じ装着状態を反対側から確認しています。
Claude Opus 5.5設計クラウンの模型装着状態を舌側から確認した写真
Claude Opus 5.5/模型・舌側。着座した状態で周囲との形態を確認しています。

04 — 厚すぎる辺縁と、薄すぎる辺縁

Astra Proのクラウンは、実物で見るとマージン部がかなり厚い形態でした。部分的には約1mm程度に見えるところもあり、通常のクラウン辺縁としては過度に厚い印象でした。この「約1mm」は目視による印象で、精密に実測した値ではありません。

Claudeは逆に、辺縁がかなり薄い状態でした。設計時にマージン厚を0としてスタートしており、Claude自身の設計レポートでもマージン付近が極薄で、加工時には厚みの設定が必要と認識していました。その特徴が実物にも表れています。

Astra Pro設計クラウンを単独の歯型上で近心から見た写真
Astra Pro/単冠・近心。実物では歯頸部と辺縁の厚さが気になりました。
Claude Opus 5.5設計クラウンを単独の歯型上で近心から見た写真
Claude Opus 5.5/単冠・近心。模型への着座とは別に、豊隆と辺縁形態を確認しました。
ミリングとシンタリングを終えたAstra Pro設計クラウンの内面
Astra Pro/内面。辺縁がかなり厚い形態でした。写真から厚みを精密計測したものではありません。
ミリングとシンタリングを終えたClaude Opus 5.5設計クラウンの内面
Claude Opus 5.5/内面。設計レポートで指摘されていた辺縁の薄さが、実物でも確認できました。

厚い方向と薄い方向で結果は異なりますが、どちらが勝ったという話ではありません。両AIとも、辺縁設計には人間側から適切な条件を与える必要があると感じました。

05 — 入ることと、自然な歯冠形態は別の課題

Claudeのクラウンを模型上で見ると、頬側・舌側・近遠心面の表面形態や豊隆には、まだ不自然さが残っていました。歯頸部から咬合面へつながる外形、エマージェンスプロファイルなどは、さらに整えたい部分です。「入ったから合格」とは考えていません。

数値上の接触を作ると、咬合面の形が弱くなる

今回の両クラウンに共通して気づいたのは、対合歯との接触を数値的に成立させようとする中で、接触部分を広い面として作る傾向です。今回試した形態では、咬頭、三角隆線、窩、裂溝、内斜面の連続性が弱くなり、咬合面がやや人工的に見える一因になっていました。

Claude Opus 5.5設計クラウンの咬合面と頬側寄りの形態を模型上で確認した写真
Claude Opus 5.5/前方頬側からの咬合面観。接触だけでなく、咬頭や隆線、窩・裂溝のつながりも次回の検証対象です。

次回は広い面接触ではなく、小さく局在した接触域を条件に加える予定です。数学的な一点を求めるのではなく、解剖学的形態を先に成立させ、その形態上に小さな接触を残す方向で検証します。

06 — 実物にして初めて分かったこと

両AIとも加工可能なSTLを生成できました。しかし製作してみると、挿入経路、辺縁厚、歯頸部の豊隆、咬合面形態など、画面上の数値だけでは十分に判断できなかった問題が見えてきました。

「STLを生成できた」「模型へ入った」「自然な歯冠形態になった」は、それぞれ別の確認事項です。今回の実験は、その違いを手元の実物で確認する機会になりました。

最終位置だけでなく、そこへ至る経路も見る

次回は、クラウンが挿入方向へ移動して完全着座するまでの経路もAIに検証させます。コンタクトより歯頸側に挿入を妨げるアンダーカットを作らないこと。ただし、干渉を避けるために単純に隣接面を凹ませるのではなく、滑らかな豊隆と鼓形空隙を保てるかを試したいと考えています。

07 — 次回は、歯科技工士の設計思想をAIへ渡す

次回はAstra ProとClaude Opus 5.5に、可能な限り同じ条件を与えて再実験します。Astra Proにも「対側同名歯を形態参考として使用可能」と明確に伝えます。

単純なミラーコピーで終わらせず、36支台歯、隣在歯35・37、対合26、対側46、下顎第一大臼歯の解剖学的参考資料を組み合わせて設計させる予定です。

さらに、今回AIに任せていた部分へ、Dentoryが実務で考慮している設計条件を加えます。マージン形態、セメントスペース、隣接面コンタクト、咬合接触、エマージェンスプロファイル、辺縁隆線の高さ、挿入経路、コンタクト下のアンダーカット、歯冠の豊隆などです。具体的な数値は実務上の設定値のため記事では公開しませんが、再設計時にはAIへ実際の数値を渡す予定です。

今回の実物では、Astra Proには挿入経路と辺縁形態、Claudeには辺縁の薄さと歯冠外形という、それぞれの課題が見えました。CAD画面上で成立していた数値だけでは分からなかった部分です。

見つかった問題をそのままAIへフィードバックし、対側歯の参照、解剖学的資料、Dentoryの設計条件を与えて、同じ症例をもう一度設計させます。AI単独でどこまでできるかという実験から、歯科技工士の設計思想を与えるとどこまで改善するのか、という実験へ進みます。

汎用AIは、歯科技工士から具体的な設計思想を伝えられたとき、どこまで「歯」に近づけるのか。引き続きDentory実験室で検証します。