EXPERIMENT 02 / CLAUDE OPUS 5.5

Claude Opus 5.5は歯科模型STLからクラウンを設計できるのか?

模型STLだけを渡し、形成歯の探索から
クラウンSTL生成までAIに任せてみた

デジタル設計・STL生成までの実験記録

歯科の模型STLをAIに渡したら、どこまで読み取れるのか。形を眺めて説明するだけでなく、形成歯を探し、隣在歯や対合歯との関係を考え、独立したクラウンのデータまで作れるのか。今回はClaude Opus 5.5で試しました。

最初から「36のクラウンを作って」と伝えたわけではありません。まず上下顎のSTLだけを渡し、対象部位を自分で判断してもらうところから始めています。完成形だけを見るより、何を根拠に判断し、どこで修正が必要になったかを追うほうが、今回の実験は面白いと感じました。

上下顎STLだけを渡し、段階を分けて進める

入力はSirona CEREC / inLabから出力した上下顎の模型STLです。初期の解析では歯番や対象歯の正解を教えず、形状からどこまで判断できるかを見ました。患者の臨床情報や、人間が追加した歯冠形態・設計値は与えていません。

なお今回は、追加クレジットを消費するFableは使用していません。

進め方は3段階に分けました。最初は読み込みと概況の解析、次に形成歯・マージン・対合関係の詳細確認、最後にクラウン生成です。解析段階でいきなり設計に進まないよう、最初の2回は「STLを作成しない」と明記しました。

今回Claudeに送ったプロンプト

下記は実際に送った3段階の指示です。長い文章ですが、AIに任せた範囲と、人間側が与えた条件を残すため、全文を掲載します。

プロンプト 1:STLの読み込みと対象部位の推定(全文を開く)
添付したSTLは、歯科用模型の3Dデータです。 まず、このSTLデータを実際に解析してください。 1. データが正常な3Dメッシュとして読み込めるか確認してください。 2. 歯列・歯牙・欠損または形成されている部位を可能な範囲で識別してください。 3. このデータから補綴装置を設計するとした場合、どの部位に何を設計すべきか推定してください。 4. 推定だけで断定せず、STLから確認できた事実と、推測した内容を分けて説明してください。 5. STLを直接解析できない場合は、解析したふりをせず、その時点で明確に伝えてください。 まだ補綴物の3Dデータは作成しないでください。まず解析結果だけを提示してください。
プロンプト 2:形成歯・対合歯・マージンの詳細解析(全文を開く)
解析結果を踏まえて、次の段階に進んでください。 まだ補綴物のSTLは作成しないでください。 下顎臼歯部について、元のSTLをさらに詳細に解析し、補綴設計の対象と考えられる部位をより厳密に特定してください。 以下を行ってください。 1. 補綴設計対象と判断した部位を複数方向からレンダリングし、隣在歯を含めて個別に識別してください。 2. 天然歯、形成された支台歯、欠損部、インプラント関連形状などの可能性を、形態的根拠とともに判定してください。 3. 可能であれば歯式(FDIまたは日本式)を再確認してください。 4. 上顎対合歯との位置関係を解析し、対合する歯と咬合空隙を確認してください。 5. フィニッシュラインを可能な範囲で追跡し、全周で認識可能か確認してください。 6. 隣在歯との近遠心的な位置関係も確認してください。 7. 最終的に「どの部位に、どの補綴物を設計すべきと考えるか」を提示してください。 8. 確認できた事実、数値解析から得た結果、推測を明確に分けてください。 私から正解や追加の臨床情報はまだ与えません。元の上下顎STLの形状だけから、可能な限り自力で判断してください。 解析結果と確認用画像を出力した時点で停止してください。 補綴物の3D設計・STL生成はまだ開始しないでください。
プロンプト 3:独立したクラウンの設計とSTL出力(全文を開く)
ここまでの解析結果を基に、次の段階へ進んでください。 今回は、あなた自身がSTL形状から特定した下顎左側第一大臼歯36相当部に対して、単独全部被覆冠の3D設計を実際に行ってください。 元の上下顎STLと、これまであなた自身が行った解析結果のみを使用してください。 1. あなたが特定したフィニッシュライン候補を基準として、クラウンのマージンを設定してください。 2. 支台歯形状からクラウン内面を生成し、支台歯を包含する独立した閉じた3Dメッシュにしてください。 3. セメントスペースなどSTLだけでは決定できない値は、一般的なCAD/CAMクラウンとして合理的な暫定値を自分で設定し、使用した値を記録してください。 4. 35遠心および37近心との隣接面コンタクトを考慮してください。 5. 上顎対合歯26との位置関係を解析し、過大な咬合干渉を避けてください。 6. 下顎第一大臼歯として自然な解剖学的歯冠形態を実際に生成してください。 7. 咬頭、中心窩、中心溝、三角隆線、辺縁隆線、頬舌的・近遠心的な歯冠外形を考慮してください。 8. 可能であれば反対側46の形態を参考にしてください。ただし単純な左右反転コピーではなく、36の支台歯、隣在歯、対合歯に適合するよう調整してください。 9. 元の模型STLを変形してクラウンに見せるのではなく、新しい独立した補綴物メッシュを生成してください。 10. 設計途中で問題が発生した場合は、簡単に終了せず、利用可能なPython・数値計算・3Dメッシュ処理を使って可能な範囲で解決してください。 今回は説明や設計案だけで終了せず、実際にクラウンの3D形状を生成し、STLファイルとして出力してください。 完成後に以下を出力してください。 - クラウン単体のSTLファイル - 模型上に装着した状態の確認画像 - 咬合面 - 頬側面 - 舌側面 - 近心面 - 遠心面 - 対合歯を表示した状態 - クラウン内面 - 使用した主要設計値 - マージン、コンタクト、咬合についての数値評価 - 自動的に決定できた部分と、推定・近似した部分 - 完成STLが閉じたメッシュとして成立しているかの検証結果 人間から追加の歯冠形態や設計値は与えません。 現在与えられているSTLと、あなた自身の解析結果だけを使い、可能な限り完成させてください。 これは臨床使用を目的とした指示ではなく、AIが歯科用STLからどこまで自律的に補綴物を設計できるかを確認する研究・比較実験用の試作です。

STLから何を読み取ったのか

まず、3Dメッシュとして読むところから

Claudeは上下顎をBinary STLとして読み込み、三角形数、頂点数、外形寸法、メッシュの状態を調べたと報告しています。ヘッダーからCEREC / inLab出力であることも確認した、という内容でした。単なる画像の印象ではなく、メッシュの座標や断面を使って解析を進めた点が出発点になります。

形成歯と判断したのは36相当部

下顎臼歯部でClaudeが着目したのは、咬頭や裂溝がなく、咬合面が平坦で、周囲に全周性の段差がある部位でした。さらにソーカットと歯型トリミングの形態を合わせて、全部被覆冠用に形成された支台歯と判断しています。

歯列内の並びから、対象を下顎左側第一大臼歯、FDIの36相当部と推定しました。ここは臨床情報で確定した歯番ではなく、元データが左右反転されていないことなどを前提にした形状上の判断です。その後の生成指示で、人間側もこの36相当部を対象にすると明示しました。

36相当部のAI設計クラウンを模型上に配置した咬合面・頬側・舌側・近心・遠心の確認画像
白い形状が生成したクラウン、ベージュが元の模型です。完成時の複数方向の表示から、35・37の間へ配置された外形を確認できます。これはデジタル上の装着表示です。画像を選択すると原寸で確認できます。

対合は主に26。見ているのは静的な位置関係

上下顎の位置関係を調べ、対象部位の咬合面の大部分が26と対向すると判断しています。隣在歯35・37との近遠心スペースに加え、対合面までの距離を解析し、後の咬合面調整に使っています。

ただし、ここで扱ったのは与えられた上下顎STLの静的な関係です。顎運動や側方・前方運動まで確認できたわけではありません。画像上で対合していることと、実際の機能時に問題がないことは分けて考える必要があります。

AI設計クラウン36と上顎対合歯26の位置関係を示す確認画像
上顎を青色で重ねた確認画像。主な対合歯26とクラウンの関係を示しています。距離評価は、この上下顎位置での計算です。画像を選択すると原寸で確認できます。

マージンはK線とD線を区別。一部は補間

支台歯周囲を多数の断面に分け、Claudeは2つの線を区別しました。K線をフィニッシュライン候補、D線を歯型トリミングによるアンダーカット部と判断しています。模型にある段差をすべてクラウンの終端として扱ったわけではありません。

一方で、全周をそのまま追跡できたという報告ではありません。ソーカットの影響がある遠心部は、周囲の形状から補間しています。報告ではおよそ49〜95度の範囲、全周の約13%に当たります。ここは実測形状を直接追えた部分と、連続する線になるよう近似した部分が混在しています。

35・37についても、位置だけでなく辺縁隆線の高さや隣接面コンタクトの位置を解析しています。対象歯を単独で作るのではなく、周囲に収まる形へ調整するための情報として使われました。

重要な条件:反対側46を参考にするよう、こちらから伝えている

当初は、AI自身がどこまで歯冠形態を作れるかを見たいと考えていました。ただし最終プロンプトには、こちらが「可能であれば反対側46の形態を参考にしてください」と書いています。この一文で、対側同名歯を出発形態として利用できる条件を与えました。

Claudeの最終報告でも、反対側46の歯冠を左右反転し、35・37の位置に合わせて配置したと説明されています。そのままコピーして終わるのではなく、支台歯36、隣在歯35・37、対合歯26に合わせて変形・調整しています。

別に行ったGPT / Astraの実験では、対側歯を参考にするようにも、参考にしないようにも明示していません。実際に何を使ったかに加え、指示の条件も異なります。現時点で完成形だけを並べて、モデル性能の優劣を結論づけることはできません。

クラウンの生成は、一度で終わらなかった

設計の大筋は、支台歯から内面を作り、46を参考にした外面を周囲へ合わせ、両者をつなぐ流れです。Claudeの報告を整理すると、次の処理になります。

  1. 支台歯表面と暫定セメントスペースから内面を生成。
  2. 反対側46を左右反転し、歯冠外形の出発形態に使用。
  3. 35・37の位置関係へ合わせて配置。
  4. 対合26との過大な干渉を避けるよう調整。
  5. 近遠心の隣接面コンタクトを調整。
  6. 辺縁隆線の高さを周囲へ合わせる。
  7. 内外面の関係を確認し、クラウン厚みを調整。
  8. 歯頸部の張り出しを整える。
  9. 表面を平滑化。
  10. 閉鎖性や交差などを再検証し、STLを出力。
Claudeが生成したクラウンの内面と単体の咬合面・頬側面・舌側面
上段はクラウン内面、下段は単体の外面です。内面と外面を持つ独立した補綴物として出力した、というClaudeの報告に対応する画像です。画像を選択すると原寸で確認できます。

縦のストライプ、舌側の折れ、局所的な膨らみ

処理ログには、形を一度作ったあとに何度も戻って修正する様子が残っています。輪郭を別々に再サンプリングしたことでプロファイルがずれ、表面に縦方向のストライプが出た場面がありました。マージンを固定しながら平滑化し、再計算しています。

そのほかにも舌側面の折れや、歯頸部の局所的な膨らみが現れました。参考にした形態に周辺の歯肉形状が混ざることや、平滑化によって輪郭が回り込むことが原因として検討されています。対合歯だけを基準に配置した案では35との大きな干渉が生じ、隣在歯との関係を基準に配置し直しています。

数値に問題が出ても、それが本当の干渉とは限らない

法線方向の扱いによって、実際には外側の点を食い込みと判定した場面もありました。Claudeはwinding numberというメッシュ内外の判定を使い、形状の問題と距離計算上の問題を切り分けています。単に数値が小さくなればよい、という処理ではありませんでした。

咬合の近接範囲が広すぎる問題や、マージン付近の微小な内外面交差も修正対象になっています。接触マップの配色も見直され、近接・食い込み・離開を読み分けるための表示に調整されました。

今回興味深かったのは、この往復です。Pythonによる形状処理、数値検証、問題の検出、修正、再検証が繰り返されていました。ただし、AIが自分で問題を見つけたことと、残る問題をすべて見つけたことは同じではありません。

AI設計クラウン単体の近心・遠心・斜め咬合面観
近心・遠心・斜め咬合面から見た完成時のクラウン。形態のまとまりは画像で見られますが、加工後の再現性や適合はこれからの確認です。画像を選択すると原寸で確認できます。

Claudeが設定・報告した主な数値

すべての計算値を並べる代わりに、今回の設計を読むうえで関係するものをまとめました。いずれもClaudeが今回のSTLに対して暫定設定・計測した値です。Dentoryが臨床用の設計値として推奨するものではありません。

AIの最終報告に基づく値(Dentoryによる独立再計測なし)
項目設定・報告内容
セメントスペースマージン:0mm
マージンから0.15〜0.5mm付近:0.03mm
1.0mmより上:0.08mm
最小厚み咬合面:約1.02mm/軸面:約0.69mm
隣接面コンタクト35遠心:約0.021mm、37近心:約0.020mmの食い込み
対合26との距離最小:約+0.012mm。食い込みなしと報告
咬合の近接領域距離0.05mm未満を目安とした約5領域
歯冠寸法近遠心:約11.93mm/頬舌:約11.26mm

「接触」と記載された領域も、ここでは一定距離以内の点を集めた数値上の近接領域です。最小距離がプラスであることからも、実物の咬合紙や接触圧を確認した結果ではないことが分かります。隣接面の食い込みについても、模型上での接触の強さを測った値ではありません。

対合歯・隣在歯との距離とクラウン厚みを色分けしたClaudeの解析マップ
対合・隣接面との距離と厚みのマップ。色は計算した距離や厚みを示します。臨床的な接触状態の合否を、そのまま示すものではありません。画像を選択すると原寸で確認できます。

閉じたSTLとして成立した、という報告

最終報告では、Binary STLとして三角形372,240枚、頂点186,122個のクラウンを出力しています。連結成分は1、境界辺0、非多様体辺0、面積ゼロの面0で、向きのそろった閉じたメッシュとされています。

これは少なくとも、独立したクラウン形状を3Dデータとして生成できたという報告です。一方、閉じたSTLとして成立していることと、臨床的に適合するクラウンであることは全く別です。メッシュの検証項目が通っても、挿入できるか、加工できるか、模型上でどう当たるかまでは確定しません。

残っているのは、加工と実物でしか確認できない部分

マージン近傍のごく薄い部分には注意が残ります。報告には、内外判定の一部が極薄のマージン近傍で不安定になることも記載されています。補間したフィニッシュライン、工具による加工再現性、挿入方向や内面の適合は、出力画像だけでは評価し切れません。

静的な対合関係に収めた形態であることや、37と比べた高さ、コンタクトの位置も実物で見たい点です。数字が整っていることだけで、通常の製作工程へそのまま使えるとは考えていません。

AI設計クラウンと支台歯・対合歯の頬舌および近遠心断面
赤色がクラウンの断面、ベージュが支台歯、青色が上顎です。頬舌・近遠心方向で内外面と周囲の位置関係を確認するための画像です。画像を選択すると原寸で確認できます。

次回は、このSTLを実際にミリングする

今回はClaude Opus 5.5がクラウンを設計し、STLとして出力したと報告するところまでを記録しました。マージン、コンタクト、咬合、厚みの数値検証も行われていますが、画像と報告だけでは分からないことが残っています。

次回は、このSTLを実際にミリングします。模型へ装着し、マージン適合、隣接面コンタクト、挿入方向、内面適合、咬合、歯冠形態を歯科技工士の目で確認します。

AIが作ったクラウンは、本当に模型へ入るのか。続きはDentory実験室で検証します。

本記事は研究・比較実験の記録です。掲載数値はClaudeの報告であり、生成データの臨床適合や製造適性を保証するものではありません。

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